アバンタイトル(avant-title)ってなに?

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映画やアニメの解説を読むと、「アバンタイトル」って言葉をたま~に目にしませんか?

ラジオの映画解説番組なんかを聴いてると、「アバンタイトルシーンで~」の様な使い方でたまに聞くことがあると思います。

なんとなく文脈からわかるような気がしますが、正確にはアバンタイトルってどういう意味なんでしょうか?

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アバンタイトルってなに?

アバンタイトルavant-title、仏英混合の造語、アヴァンタイトル、略してアバンとも)は、映画やドラマ、アニメや特撮などでオープニングに入る前に流れるプロローグシーンのこと。プレタイトル(英語:pretitle)と呼ばれることもある。また、英語では一般的にこのような映像手法をコールドオープン(cold open)という。

Wikipedia(アバンタイトル)より

Wikipediaを調べると、こんな風に説明されています。引用後半にはコールドオープンという、これまた聞いたことが無い言葉が登場していますが(これについては後述します。。)、アバンタイトル自体の意味は何となくわかりましたね。

要するに、映画のタイトルが表示されるまでのシーンのことです。

昔の映画はいきなり映画のタイトルがドーンと表示されて、その前にシーンなんてありませんよね?あっても作った映画会社の名前や、オープニングクレジット(メインのキャストやスタッフの名前が表示されるやつ)が表示されるくらいだったと思います。

そんななか、映画タイトルの前のシーンが超有名な映画が登場しましたね!わかりますか?

そうです!007(ジェームズ・ボンド)シリーズです!

『007シリーズ』では映画冒頭に、画面を横切るジェームズ・ボンドがこちらに向かって撃つシーンから、長めのオープニングシークエンスが始まり、テーマ曲が流れてタイトルがでる、というのが第1作目の『007 ドクター・ノオ』から第20作目の『007 ダイ・アナザー・デイ』まではお約束としてついており、とても有名です。ガンバレル(銃身)の中からのショットは007シリーズを見たことが無い人でも、パロディなどで見たことがあるかもしれません。

この007シリーズ特有のお約束オープニングは『ガンバレル・シークエンス』と呼ばれて愛されています。

近年のダニエル・クレイグ版では、このお約束をちょっと斜に構えた感じでアレンジしていましたが、個人的には、お約束はお約束として、あまり弄らずに正々堂々と見せる方が好きなので、『スペクター』で復活した時は嬉しかったものです。

アニメやドラマの場合

メインタイトルの前にシーンを挿入する点においては、映画よりもドラマの方が先駆けていたかもしれません

続きもののドラマの場合は、前回までのあらすじを入れたり、世界観や登場人物の説明シーンがあるものが多かったので、視聴者も自然と受け入れていたんじゃないでしょうか?

ドラマだと、『宇宙大作戦(スター・トレック)』や最近ガイ・リッチーが『コードネーム U.N.C.L.E.』としてリメイクした『ナポレオン・ソロ』なんかが、アバンタイトルとしては有名どころですね。日本でも『恐怖劇場アンバランス』や『怪奇大作戦』の円谷オムニバスホラー番組は作品世界へ一気に引き込まれるほど、良いアバンです。

アニメでも『未来少年コナン』

西暦2008年7月 人類は 絶滅の危機に直面していた。…

や『北斗の拳』での

199X年、地球は核の炎に包まれた。 …

なんかは、アバンタイトルでの世界観説明シーンは超有名ですね。みんな暗唱したよね?

コールドオープン(Cold Open)ってなに?

アバンタイトルについては、これでなんとなく理解ができたと思います。

それでは、冒頭のWikipedia引用に登場したコールドオープンってなんなのでしょうか?

アバンタイトルと違いはあるのでしょうか?

また、英語では一般的にこのような映像手法をコールドオープン(cold open)という。

Wikipedia(アバンタイトル)より

コールドオープンというのはティーザーとも呼ばれますが、主に映像業界で使用される専門用語で、タイトルやオープニングクレジットより前に、本編のストーリーを直接ジャンプして見せるテクニックです

これは、基本的にはテレビ番組で使われる手法で、番組冒頭でいきなり本編を見せることで、視聴者の興味を引き、チャンネルを変えさせない様にする、という効果があると言われています。

アバンタイトルはタイトル表示前のシーンを表すのに対し、コールドオープンというのは主に技法を表している、ということですね。

スター・トレックの生みの親である、ジーン・ロッデンベリーはオリジナルのスタートレックシリーズのWriter-Director Information Guideに「ティーザー(コールドオープン)」について、以下の様に補足説明をしています。

ティーザーは3ページ以下の長さが好ましい。

カーク船長のボイスオーバーで、私たちがどこにいるのか、いったい何が起こっているのかを簡単に説明します。通常は短いシーンであり、本編の「とっかかり」を与えてシーンを終わらせます。

タイトルが最後に表示される映画の場合は?

昔から、映画のラストにタイトルが表示される演出はありましたが、近年は『ダークナイト』や『インセプション』など、クリストファー・ノーランの映画で多用され、見る機会が増えましたね。ラストにドヤ顔で映され、ハンス・ジマーの鈍重な音楽と共に観客に強引に余韻の様なものを与えるこの演出ですが、この場合は、映画本編全部がコールドオープンになるのでしょうか?

実際には、当然そういうことはありません。その様な場合、オープニングシーンやオープニングモーメントのことを「コールドオープン」として指します。

同様に、あまりにも長いアバンタイトル(プレタイトル)の場合も、そのシーン全体をコールドオープンと表現することもあまりないでしょう。

アバンタイトルの逆はなんていうの?

これで、タイトルクレジット前のシーンがアバンタイトルというのは分かりましたが、逆にエンドクレジット後のシーンには呼び方があるのでしょうか?

アニメではこのパートのことは、エピローグブリッジと呼ぶのが一般的な様ですが、あまり映画ではエピローグブリッジという言葉は一般的に使われていないようです。

日本ではあまり聞き馴染みがありませんが、海外ではポスト・クレジットシーン(Post-credits scene)という呼び名が一般的みたいです。他にもタグ(tag)、スティンガー(stinger)、コーダ(coda)、クレジット・クッキー(credit cookie)と、色々な呼び方があります。

現代的なポスト・クレジットシーンが使われ始めたのは、一説には『マペットの夢見るハリウッド(1979)』からと言われています。カーミットなどジム・ヘンソンのマペット達が活躍するコメディ映画ですが、クレジット中もマペットが大騒ぎして非常に楽しく、子供でも映画の最後まで飽きずに楽しんでほしいという製作者のサービス精神が感じられます。

この映画のあと、80年代ではコメディ映画を中心にポスト・クレジットシーンが流行りました。例えば、飛行機パニック映画のパロディ『フライングハイ(1980)』では完全にオチに使われてましたね。87年のマテル社のHE-MANシリーズのおもちゃをドルフ・ラングレンで映画化した『マスターズ/超空の覇者(1987)』では、ポスト・クレジットシーンで敵キャラのスケルターが「I’ll be back!」と叫ぶシーンがおまけであり、続編を匂わせていましたが、批評的にも興行的にも今作が大失敗したため、彼が戻ってくることはありませんでした。ちなみに、このお蔵入りした続編の脚本は後にジャン=クロード・ヴァン・ダムの『サイボーグ(1989)』として再利用されました。

この様な続編を匂わす使われ方もされますが、注目すべきは、マペットのようにコメディ映画でポスト・クレジットシーンを使用される時は、第4の壁を壊すようなメタ的な使われ方が多いことです。ジョン・ヒューズの傑作『フェリスはある朝突然に』なんかが分かりやすいですが、エンドクレジットが終わった後(もしくはクレジット中)に、劇中の登場人物が観客に話しかけてくる演出は観客をギョッとさせ、しかも映画と現実の境界を曖昧にして、不思議な余韻を持たせる効果があります。最近では『フェリス~』オマージュで『デッドプール』でも同じことやっていましたが、あれは第4の壁を破壊した偉大なる先輩フェリスへのデッドプールからのリスペクトとして、とても楽しいシーンでしたね。

最近ではマーベルのMCU作品を中心に、続編を匂わせる為に、クレジット途中や、クレジット後におまけのシーンが付くことが増えましたね。最近のハリウッド大作が続編ありきのものや、シネマティックユニバース構想の作品が増えた為に、次回予告的な使われ方がされていると感じています。

印象的なアバンタイトルの映画は?

アバンタイトル→タイトルバックの流れがカッコよく決まっている映画は、それだけで8割ぐらい成功しているといっても過言ではないでしょう!

映画を観ていて個人的に「き、決まった・・・。」と思ってしまった映画を最後にちょっと紹介します。

高橋洋監督の『恐怖』(2010年)

リングの脚本家として有名な高橋洋Jホラーシアターの最終作として監督した『恐怖』。

監督・脚本の高橋洋が作家性が強すぎる故に、Jホラーシアターの最後に回された(※一瀬プロデューサー曰く、途中だとJホラーシアターが終わってしまう危険性があったためらしい…。)だけあって、本編は非常に濃い好き嫌いの分かれるものでしたが、タイトルが表示されるまでのアバンタイトルのカッコよさは白眉と言っていいでしょう!劇場でこのオープニングを観た時は鳥肌ものでした。

ものすごく怖いショッキングなセリフからのタイトル、ドーン

ホラー映画として満点と言っていいでしょう!

プレデターシリーズの3作目『プレデターズ』(2010年)

映画が始まった途端に、傭兵のロイス(エイドリアン・ブロディ)が空から落下しています。

地面に衝突する直前、訳も分からず、ギリギリでパラシュートが開き、タイトルがドーン!

プレデターズ(どーん!)

いいですね!

いきなりすぎて画面で何が起きているのかわからなく、文字通り映画の世界に放り出された感があり、スピード感によって観客と主人公ロイスの感情を力技で一体化させる演出が素晴らしいです!

ミッション:インポッシブル/ゴーストプロトコル』(2011年)

トム・クルーズ主演の『ミッション:インポッシブル』シリーズの4作目。

アイアン・ジャイアント」や「Mr.インクレディブル」といったアニメ映画で有名なブラッド・バードの初実写作品ということもあり、全体的に画面やアクションシーンの作りこみが凄まじいというアニメ出身作家特有の作家性を実写でも存分に発揮した作品でした。

その後のシリーズではトム・クルーズのリアルアクションが最大の見せ場になり、いわばアクションのもつリアルな事故性に舵が切られ、それはそれで興味深い方向へ進んでいるのですが、事故性を除いた完成度という意味では今作がシリーズ中到達点ではないでしょうか?

映画全体での作りこまれたアクションのつるべ打ちも素晴らしいのですが、何といってもアバンタイトルのアクションシーンからシリーズのテーマが流れ、オープニングクレジットがアニメーションと共にが展開される流れは最高の一言!